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2005/12/13

「死者として残されて」ベック・ウェザース著

1996年エベレストでの大量遭難(日本人女性第2登で登頂後に亡くなられた難波康子さんの遭難もこのときのこと)は、既に別の本では「空へ」(ジョン・クラカワー著)がベストセラーとなったし、それへの反論として書かれたソ連人ガイドアナトリ・ブクレーエフ著「デスゾーン」も有名である。

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「死者として残されて」は当時難波さんと同じ場所で、二人とも虫の息のところを翌朝発見されたものの残置されたままでその場で死者として扱われた方です。テントからはそんなに離れていない距離でした。奇跡的な復活で、夕方に突然目が覚めて!!自分でテントに歩いて戻って奇跡の生還とされました。テントに戻ったのに、ほとんど死者扱い。クラカワーの本を読んでも、ほとんど死者として扱かわれていて、下のテントまで下ろすのも別のメンバーが行ったようで、「空へ」を読んだときも、なんだかとっても不思議な方だと思っていた。間違いなく死ぬとされたのに、ちゃんと生きて戻ってきて。代償としては、右手全部と左の手のほとんどと鼻の欠損。


日本人としてまず気になるのは難波さんの最後だが、著者は決して遠征隊の他人への悪口を書かない方で、そのあたりがとても素晴らしいと思う。でも彼女の死については「置き去りにされたことについては、私自身は恨んでいない。だが、康子をキャンプまで連れ戻すのはどれほどたいへんだったというのだろうか?彼女はあんなに小柄だったのだ。せめてテントの中で死なせてあげたかった。冷たい氷の上に一人ぼっちにせず、仲間たちに見守られながら、息を引き取らせてやりかたった。」と書かれていて、なんかじ~~んとしてしまった。そう思ってくれた仲間が一番近くに居ただけでも、彼女は少しだけ救われたような気がする。実際のエベレスト最終キャンプでは、自分が助かるのが精一杯、他にも大量の遭難者や行方不明者が出たこともあり、それどころではなかったのだろうけれども・・・・


キャンプに生還したといっても、サウスコルは7980m。とても普通の感覚は通用しないところだろう。低体温昏睡症になると復活はできないという通説もまたしかり。だけど、現にステロイド剤が劇的に効いて、歩いて降りてきたことを考えると本人の脅威的な回復力によるところが多いだろうけど、やはり相当に体力と気力のある方なのだと思う。

この本は現在のエベレストツアー登山およびその他セブンサミットなどのガイド登山を顧客の立場から見ることができる本である。あまりテクニカルな登山でないエベレストのノーマルルートは体力勝負。とっても体力を鍛えていて、お金があれば登れてしまう(もちろん、素晴らしいガイドとお天気に恵まれる条件は必要)というのがよくわかった。著者は山を始めて実質5年ぐらいでエベレストに挑戦している。マッキンリーにいたっては、ほんの2年ぐらいかな?なんか、登り急いでいるなあ・・・っていう感じだが、やはり40代のうちに挑戦したかったのだろう。(当時49歳)


でも、読んでいて思ったのは、なぜ彼は目が見えなくなった(目にレーシックの手術をしていたお陰で、極端な気圧の場所ではまともな視力が出なくて、ほとんど目が見えなかった)時点で、待つように言われたまではわかるけど、何故生命の危険が襲うまで待っていたのだろう?エベレストの稜線で10時間も吹さらしの場所でガイドを待つ・・・・ちょっと信じられない。高山病で正確な判断ができなかったのかもしれない。何人もガイドパーティーは降りているし、実際に一緒に降りましょうと声をかけてもらったのに・・・・。やはり、大きな山はガイド頼みの登山ばかりしているためなのだろうか?自分で自分の身を守るという本能をガイド登山のもとでは欠如させてしまうのかもしれない。著者はかなりの体力トレーニングを積んでいるが、アメリカの山事情が私はよくわからないが、本格的な登山を毎週行っているかどうかは?日本は国土が狭いので毎週末でも本格的な山に行こうと思えばいけるが、国土の広いアメリカではそういうことは? 幾つか出ている話は、いずれも夏のバカンスなどに集中的に登っているような印象だった。あまりにも急激に山の経験を積んだので、推測になるが、多くの経験はガイド頼みのような感じ?に読めなくもなかった。体力があるから登れるんだろうけど、逆にガイドが居ないと歩けないとか恐いという感じもあるのかもしれない。(そんな勝手なことを私なりにこの遭難という意味では思うに至った。)


実はこの本は、エベレストの悲劇は前の3分の1ぐらいで、それ以外の部分は何故山に入れ込んでしまったのか? また、山に入れ込みすぎて家族と断絶した関係になり、それをこの遭難をきっかけに自己の再生、家族との人間関係の修復がされた・・・なくなった体の大きさよりも、もっと大切なものを再び手にいれたという話だった。


悲劇的なエベレストの結果、その人生の再生ともいえる話は胸をうつ。もちろん自分的には山が好きなので山の部分はきっちりと読んだが、そのあとのエピソードや著者の人となりが描かれている部分が感動的だ。奥様はゴルフウィドウならぬ、山未亡人?みたいな状況なのだけど、日本と違ってアメリカはカップル社会なので辛かっただろうなあ・・・・。最後は本当にじんわりするエンディングで、これからも著者が力強く生きていくような姿が想像されて、ポジティブな生き方に感銘した。感想はこのブログが山関係の人が多いのでその部分を多く書いたが、実際の感想や感動は登山以外の「人としての生き方」の部分の方が大きなウエイトを自分の中ではしめた。


既に「空へ」「デスゾーン」を読んだ方には、是非第三の立場として読み比べてみると誠に感慨深いものがある。それぞれの立場が微妙に違って読めてくるのが興味深い。自分はクラカワーの本を最初に読んだのだけど、この本を読んで、「空へ」を所々読みなおしてみると、クラカワー氏はもとがクライマー貧乏みたいな感じの人なので、この著者のような富裕層(医師)への反発を持っているなあっていう部分も妙に目だって読めてしまう部分がある。結局このエベレスト大量遭難を扱った3冊の本を読み、それぞれの立場を読んでいくと本当に物事は多面的であり、主観的なものなのだなあと強く感じた。

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コメント

おー、読みましたか。
面白かったでしょー。
このベックさんはエベレストのためものすごいトレーニングしてましたよね。
だから生還できたんじゃないかと私は思ってます。

またこの三部作読みたくなっちゃったな。

投稿: Aurora | 2005/12/14 12:43

MINMINさん

私も読んだ事有ります。
難波康子さんの最後を知る人なんですよね。
助ける事は出来ない場面ですが、天気の大きな崩れさえ無ければ生還出来たかも知れないんですね。
その辺りの記述には胸打たれました。
数々の苦難の有る山で読んでいて苦しい程でした。
ベックさんはあの状況で良く生きていたと言われるのは、並外れた体力気力なんでしようか。
思う事は沢山有る内容ですが、夫としては妻から見たら困った人でしょうね。
最後は家族としての再生が有るのは救いです。

投稿: 山百合子 | 2005/12/14 21:27

★Auroraさん
面白かったし、感動しました。
本当に家庭崩壊するまでのトレーニングぶりは驚きです。
でも、実際の山でのトレーニングがどんな感じだったのかは推測になってしまうのですが、どんな感じが是非知りたいものだと思いました。

逆にこれだけ体力つけたからこそ生還したとはまさにその通りだと思います。実質筋肉だけを14キログラムも作り上げたというのはすごいことだと思います。

★山百合子さん
既に読まれてましたか・・・。
なかなか息苦しい感じというのもわかる気がします。私はこういう本を読むと緊張で?肩こりするような感じです(苦笑)

家族からみたら最高に困った夫ですね。家庭崩壊そのもの。
遭難前は結構、嫌な奴だったような感じですが、遭難によって本人も家族関係も再生された話なので、だんだんと気持ちが読んでいって楽になり、救われた気分になりました。

投稿: MINMIN | 2005/12/15 00:12

他2冊は読んでいるのですが、この本は未読です。
私の頭の中にはこの遭難の画像が浮かんでくるのですが、
TVで番組ありましたっけ?
ところで、下の「生還」を昨日本屋で見つけて、買ってしまいました。 今朝、電車の中で2章読みました。
非常に考えさせられます。 また、女性2名の遭難は、下ではきつい事を書きましたが、読後はただただ痛ましいという思いです。

投稿: REI | 2005/12/15 19:29

REIさん
この遭難は、キュメンタリーとして「エベレスト」?という映画に出てくるのではと思います。ちょうど、撮影隊が入っていたときに、この遭難が起こったので、このベックさんは実はこの撮影隊のメンバーが主体になって降ろしたのです。とても技術的にもすぐれた登山隊でもあったようですよ。
後日、日本人女性第3登者になった続さんという女性もこの映画の出演者でした。

ちょうど、自分はこの映画を見ていないのですが、新宿の高島屋の上にあるアイマックス?だっけの単館上映だったような。現在は、たしかDVDで販売されていると思います。

「生還」はやっぱり考えされられる本でしたでしょ・・・。なかなかよい教訓となる本だと思いました。私も未だに思うところがあります。

投稿: MINMIN | 2005/12/15 21:42

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