「女たちの山 シシャパンマに挑んだ女子隊9人の決算」落合誓子著
田部井淳子さんの自伝「エベレストママさん」は恐らく20代の頃に読んで、最近は復刻版も出たので文庫本と2冊も持っている。他にも図書館などで関連の本を読んでいて、エベレストよりも先に登ったアンナプルナの本(「アンナプルナ女の戦い」?という本)を探しているとプログで書いたら、Auroraさんが、逆にエベレストの後で女子登攀クラブが登ったシシャパンマ(1981年登頂)の本を紹介してくれた。
それが、この本である。今は発売されていないようなので、アマゾンの中古で購入。さっそく読んでみたけど、うーん、<山行記というよりも暴露本である>というAuroraさんの感想がずばりそのもの。読後感としては、かなり重いものを感じたが、女同士で登るとか、かつての遠征隊のありかたなど・・・・・とっても興味深いものを感じました。
私は本格的なレベルの登山をしているわけではないので、遠征隊なんていうのは世の中の別の世界のものだとずっと思ってきた。高校時代ぐらいから長谷川恒夫の三大北壁冬季単独登頂とか加藤保男のエベレストとかカモシカ隊の縦走とか・・・・ 田部井さんのエベレスト登頂は山を自分が始める前だったけど、マスコミがものすごく報道していたのは漠然と覚えている。マスコミに出てくる遠征隊のテレビは今よりは他の隊なども含めてもっと多かったような?気がする。とにかく遠征隊イコール別の世界のすごい出来事だと思っていた。
女性がサミッターになるには、やはり女性だけで登らないとまずはお声がかからないのは当たり前だと思っていたから、田部井さんの登り方(女性だけで隊を組む)の選択はある種当たり前かなとずっと思っていた。シシャパンマは皆が登れるために女性だけで登ろうと同様な企画だったのに、結局は彼女だけの登頂。著者は9人のメンバー全員からの立場から田部井さん像を描いている。現在まで活躍されている様子を拝見するに、本当に力強い人だと思っているが、この本を読んでいるとますますその感を強くする。
何が強いかというと、肉体的な高度への強さはもちろんなのだが、マネジメント能力とか色んな意味でのまるで会社でいうならば管理職能力みたいな感じかな? 逆に登れなかった人達は一般職みたいな感じで。。。。。
なんだか、読んでいくうちに辛くなる部分も感じてしまう。登山は本来は趣味の世界なのに、ここまで遠征隊だとお金や名誉もからむので、ほとんど会社の事業そのものみたいな感じになる。自分のお金を払って遠征隊に加わってはいるのに、サミッター1人だけのために全て凝縮されてしまうような・・・他は切り捨てていく・・・。(この著者はどちらかというと反田部井さんの感覚の方みたいだけど、それもまた大いに理解を深めました。自分もこの本だけを読むとちょっと・・・って感じを持ちました。)
本当は9人の隊員はそれぞれの個性をもっているし、それぞれの楽しみ方や目標達成の仕方(例えば登頂は無理でも7000mを体験する人を増やすとか・・・・。当時入ることがほとんどできなかったチベットの文化と交流するとか)もあるのに、なんだか1名の世界女性初、日本人初の登頂者を出したという成果だけが残ったけど・・・・・という感じだ。
登頂より25年経った今、ネパールやチベットの登山は遠征隊といってもスポンサーを付けて登るという登山でなくて、ほとんど自分のお金で登る方法になってきている。いわゆる公募隊とかガイド登山などが主流である。また、入山の許可も1シーズンに幾つものパーティーを入れているので昔のような方法とは大きく違ってきている。シェルパなどの仕組みを整ってきて、ネパールあたりのエージェントに頼めば、以前より遥かに簡単に遠征隊も出陣できるようになっている。
大きく登山隊のイメージが変わってきているが、自分はそんな大それた山に登る気持ちは毛頭ないが、今の時代と昔とどちらが良いかというと、やっぱり今の方が良い時代だなと思う。誰だって、山を登りに行くのに、自分のお金を使うのに、条件さえ整えば(高度順応や技術、天候など)誰だってサミッターになりたいものだ。諸先輩達の苦闘をしのばせる本を読んで、いま改めて時代の流れを感じるものです。
ちなみに、自分の勤務している会社は環境問題にかなり取り組んでいるので、7月になんと田部井淳子さんの講演会が会社で開かれるのです。自由参加なので、一応申し込んであります。応募人多数の場合は抽選になるそうです。是非、自分も講演が聴けるといいなあ。どんな切り口で山のごみ問題とかを講演されるのでしょうか、今から楽しみです。
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コメント
MINMINさん
こちらの本は読んでいませんが、自分とは別世界とは言え山に関する本は好きで良く読んでいます。
どの本を見ても世界や場所は違っても、人間ドラマだなと思いますね。
その場での状況も違う角度で見ると、夫々感想や捉え方も違うだろうし。
田部井さんはテレビで見ると、真摯に山に向かって居ると見えるけど、実績に対しての妬みみたいな物を感じる人もいるんでしょうか。
その場に居ないと分からない事も有っただろうし。
読んでみたい本です。
ずっと昔、夫の知り合いで、今井通子さんを知っている方が居ました。
その方が、今井さんは行けて、自分が行けないのはお金の違いと言ってました。
当時の私は、それすらも??でしたけど、組織力で行った時代から、お金さえ払えば行けるから、自分で励めば何とかなる時代になったのですね。
講演会、聞きに行かれると良いですね。
やっぱり、自分の目で耳で聞いて、その人となりを感じるのも良いかもしれません。
一度では分からないけど(^^;;
投稿: 山百合子 | 2006/06/18 20:41
私も読んでないので、何とも言えないのですが、
組織ってそんな物かもしれませんね。
トップに立つ人は色々な能力があり、
当然支える立場に立たざるをえない人がいる。
植村さんや山野井さんは、それに対応しずらい
性格だったのでは。
いずれにせよ、トップに立つ人はかなり個性の強い人
というのが、私の経験的感想です。
投稿: REI | 2006/06/19 19:50
★山百合子さん
本当に人間ドラマって感じでした。人はいろんな立場から見ると、色々な側面や捉え方があると感じました。
田部井さんは本当に真摯に山に向かっているのだけど、妬みというよりも高度順応にはそれぞれ各人のスピードがあるので、彼女のようにものすごく順応性がある人もいれば、やや時間のかかる人もいる・・・それは当たり前なんだけど、このときの山は中国側の圧力のようなものもあって、大変時間的な制約?みたいなのもあって。。。。
誰が悪いとか、そういうのでもないのだけど・・・・。
たぶん、今なら田部井さんもこういう風な感じでは山には向かっていないのでは・・・と思うものです。
今井道子さんもとても恵まれた立場の方ですね。それに、何よりも遠征隊には医師が必要という部分もかなり有利に働いているでしょうね・・・・。ただ、彼女は年齢があがると後方で隊長としての任務を果たすようになって、第一線ではあまり登らなくなったところが違うところですかね。
この本は図書館あたりで借りるとかすると読めると思うので、お勧めです。(自分的には、田部井さんはやっぱり色んな意味ですごい人だと思ってます。笑)
★REIさん
REIさんも、かつて組織に所属されていたのですね。私も会社員ですから、まさに組織に所属する人間ですけど、何が辛いって、なんか遠征隊が会社組織みたいに思えてきた点でしょうかね・・・・・。
あ~辞表だそう・・・ってな訳にもいけなくて、チベットの地の果てで、「私の思っていた登山のありかたではない・・・・」と臍をかんでいて、かつ借金苦も重なって。
まさに自分の個性で組織をしきる・・・みたいな感じでしょうかね。否応無し従をえざるをえないですからね。
投稿: MINMIN | 2006/06/19 22:48
さっそくTBさせていただきました。
面白かったようでよかったです。
でもドロドロだったでしょ?(笑
ほんとアタッカーをめぐってはすごい争いがあると聞きます。
男性同士ではつかみ合いのケンカだけではおさまらず、
ナイフが出てきたりもするとか。
こわいですね~
田部井さんの講演いいな~
外部のものはきっともぐりこめないんでしょうね。
聞いたらぜひBlogに書いてください。
投稿: オーロラ | 2006/06/21 17:28
オーロラさん、TBありがとう。
良い本を教えてくれてありがとう \(^〇^)/
思いっきりドロドロで、今まで読んだ山の記録の中ではドロドロ度は最高かもしれません。(爆)
女性の方が男性よりも陰湿で、ナイフが出ない分、後をひきそうですね。よく言われているように、「本格的な海外遠征だと、どんなに親友でも帰国すると話もしなくなる・・」の話は本当だなあとしんみりしました。
田部井さんの講演は、ほとんどたぶん自然環境問題だと思うので、登りの話は少しだと思う。だから、人となりをしっかり見てきたいと思います。もちろん、プログには書く予定です。
投稿: MINMIN | 2006/06/21 20:17
エベレストママさん、むかし読みました。
田部井さんは自然体に見えるけど、スゴイ人だなと思います。
もの柔らかでも、やることはやる。
以前、息子さんと日本の山を登るテレビ番組があったけれど、
さまざまな息子さんとの葛藤などについて、かっこつけずに
見せていたので、考えること多々でした。
何かをやりたいと強く思うとき、どこかで何か齟齬が生じるんでしょうね。でも、やりたいと思うか思わないか、そこに違いが出るのかな。
熱く語ってしまった。失礼・・;
投稿: ぴとこ | 2006/06/23 09:18
ぴとこさん
私もエベレストママさんの本が気に入っていて、興味を持ったので今度の本を読んでみる気になったのですが・・・・・また、別の観点から眺める本だったのでよかったですよ。
>何かをやりたいと強く思うとき、どこかで何か齟齬が生じるんでしょうね
そうですね。まさにそんな感じかなあ。。。。
今週末は、何故か偶然ですが田部井さんと最近山に一緒に行った人の話を直接お聞きする機会を持ちました。後日、支障がない程度に話を載せるかもしれません。
投稿: MINMIN | 2006/06/25 21:54