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2006/08/30

「岳人」9月号 国際公募隊の体験記を読んで

雑誌「岳人」の9月号に今年のマナスル(8163m)に国際公募隊に参加した平木さんという女性の記事が載っていた。この国際公募隊は、いわゆる参加したい人がお金を支払って(今回の場合はネパールのエージェントに)、登山隊を組んで登るやり方で、現在の高所登山などではかなり一般的になっている方法だ。


国際公募隊といっても、色んな形のものがあるので一概に説明しにくいが、要は登山許可証代(パーミット)を人数で割ったりするので、リーズナブルに、かつ色んな面倒な手配(サーダーやクライミングシェルパやポーターなどの隊員確保、食糧、装備などの準備)のほとんどをエージェントが用意するので、参加したい人がお金を出して申し込めばよい仕組みだ。特にネパールなどのヒマラヤではシェルパの仕組みなどが整っているので、最近では大変多くの国際公募隊が存在するし、そのレベルややり方も色々と言われているところである。


この岳人で取り上げたマナスル隊は、筆者の平木さんと、あの田部井淳子さん、そしてオーストリア人の女性とそれと女性のXさんの4人の顧客からなる。私はたまたまXさんとは現在学んでいるクライミングスクールの関係で少し面識をもっている関係で、たまたまこの記事に対して、大変複雑な気持ちにならざるを得なかった。

記事を読んでいない人は、読まないと分からない部分が多いと思うが、全て記事の内容を引用するわけにもいかないので、ご了承願いたい。(興味を持った方は、雑誌を読んでみてくださいませ)


私は、この記事を読む前にもXさんからはこのマナスルの話のごくごく概略を聞いていた。土産話として聞いたのだが、彼女曰く「とんでもない登山だった」という。Xさんが私やら、ガイドの先生にこぼしていた内容はおおよそ以下のことだ。

1.田部井さん達はキャンプ入りが遅れて、高度順応が当然その分遅くなったのでXさんは既に予定通りBC入りしていて先に高度順応していたので迷惑だった。

2.田部井さんは今年の日本人のマナスル登頂50周年記念の現地でのセレモニーなどに参加していて、そのために遅れたらしいが、最後までスポンサー探しに奔走していた。某TV局と話があったが、結局話は流れてスポンサーがつかなくて自費登山となった。

3.遅れた上に、ハイキングしかしたことない女性(平木さんのこと)をつれてきた。

4.田部井さんはビックネームなので、結局はサーダーも全て彼女のご意見を伺う形で、彼女を中心に物事が全て動く形で、その発言に非常に左右された。本来公募隊は誰が偉いとかないのに、Xさんとしては不満に感じる部分が大変多かった。


今回、「岳人」を読むと、逆に反Xさん側の立場の人間の田部井&平木の立場から描かれていて、Xさんの主張していた内容と比較すると唸ってしまうものだ。ほぼ、雑誌ではXさんの写真はおろか、ほぼ抹殺に近い形の無視がなされていて、読んでいて女の恨みは恐ろしいものだと思った。(苦笑) オーストラリア人の女性とも田部井さんたちは仲がよかったようで3人の写真はあるものの、Xさんの写真は無く。さらにXさんが登頂した事実さえも抹殺されているように思えた。(そりゃあ、登りたかっただろうから悔しいんだろう)


彼女達の怒りは、要はXさんがサーダー(ネパール側のシェルパ頭兼ガイド頭兼ポーター)を独占した形になって、登頂をサポートされる権利を得たのに対して、他の田部井さんと平木さんは他に登れるクライミングシェルパなどの充分な援護を与えられず。サーダーの2度目以降のアタック隊としての扱いになり、既にへろへろなサーダーでは登頂は無理なので諦めたということだ。それで最初の登頂権が与えられた「<Xさんだけがずるい!>という図式になったようだ。


でも、これって、Xさんのせいでなくて、ネパールの公募したエージェントの問題じゃないか、ぎりぎりのクライミングシェルパの要員だけで登ろうっていう計算がまずいのだと思う(もちろん、筆者の平木さんもそれは指摘しているが)


ここから先は私の推測の部分となるが、恐らくXさんの支払った値段と、他の2名の値段が違うことが原因じゃないかと思う。要はXさんは<松定食をご予約>、他の2名は<梅定食をご予約>ってことじゃないかな? もちろん、他の二人が自分達は梅定食であるという約束だという認識で参加していれば良かったけど、実際は自分達が梅であるということを教えられず、現地に行ってみたら、あらびっくり、松定食の方がいたわ・・・ってな感じかなと推測した。Xさんとしては、<遅刻してきた人が、何を偉そうに言うの。何でも自分のいいように物事を取り仕切ってを進める>と思っていたようだ。


国際公募隊自体は、結局は経済理論に基づいた純粋な商業ベースの隊なので、結局は良いサービスを受けるかどうかは金銭の問題と比例するわけだ。田部井さん達お二人がだまされた・・・って気分なのもわかるけど、Xさんだって、その分多く支払っているとなると、やっぱり経済のもとでは公平かなって思う。


田部井さん自体はすごい登山家だが、実際のところ公募隊で登る以上はそれの流儀に沿うべき必要があると思う。それに、わざわざハイキングしかしない日本人(実際は、カナダのバンフでハイキングガイドをやっている女性で、元は早稲田大学WV部のOGなので、まるきりのハイカーではなくて、日本では普通の一般登山者レベルであるとは思われるが)を連れてきたというのも、実際は参加費用の割り勘代を安くするための算段じゃないかと推測する。入山料というのはヒマラヤでは1山で1パーティーにつき幾らと決まっているので、人数が多いほど負担が少なくなるという。結局は、4000m以上登ったことない人間にいきなり8000m峰であるマナスルに誘うというのもどうかと思う(普通は8000を狙うならばせめて6000mクラスを体験してからにするのが通常)。平木さんの場合はカナダで低圧実験する施設があるのでそこでトレーニングしたというが、やっぱりちょっと・・・・。


以前は、登山隊というとスポンサーからお金をいかに集めて・・・・と言う話がメインだったし、かつての田部井さんの著作やこの前読んだ「女たちの山」でも、さんざんそのことが描かれていた。しかし、今の時代はマナスルぐらいでは絵にならないので、スポンサーからお金の援助を受けて登ろうという発想自体が、既に過去の感覚のものに近くなって来ていると思う。


結局、田部井さん自身も漏らしているように「登山家でなくて、登山客なんですね」というセリフが「岳人」の中にあるのだけど、だけど、実際はかつてのエリート集団とかそれなりに研鑽を山岳会で積んだ人達が集まっても、結局はごく一握りの人しか登れなかった(その幸運を彼女は何度も体験しているわけど)、そういう時代から、明らかに普通の山が好きな人が普通に挑戦できる時代になった、それはたとえ本物の登山家から見ると単なる登山客かもしれないけど、それでも、<他人のお金をあてにするのでなくて、自分のお金で挑戦する>というのは、実はとても素晴らしいことだと自分は思う。


よく言われているように、高所の長期遠征に出るとどんなに仲の良い親友でも下界に降りると顔も見たくなくなる・・・という極限的な心境にもなりうるわけなので、<女同士のいさかい話>というのが正直な真相だと思う。この雑誌の記事がこういう形で出ることを予めXさんは知っていたのか、許可したのかどうか? それは私も知らない。本当は、この内輪話の愚痴話のような記事が良識的な「岳人」に載ったというのは残念だった。喧嘩というと言い過ぎかもしれないけど、両者の言い分のうち、片方だけの言い分しか載せないのならフェアには思えない。だから、今回の記事に関しては残念だ。


その話題のXさんは、今も遠く外国の地で再び別の山に夢を求めている。マナスルの辛い想い出を消すために、また素敵な山との出会いを楽しんでいる頃だろう。


私自身は、Xさんとすごく親しいという立場でないのでものすごく彼女に肩入れしている気持ちでもない。ただ、素朴に自分が例えばそういう立場に置かれたらどういう気分になるだろう・・・・という観点からすると、私もXさんみたいにごく普通の市民なのでそう思うだろうなってことだ。田部井さんはビックネーム過ぎて、大変素晴らしい人だと思うし、ある種の尊敬もしているけど、実際は8000mみたいな高所には一緒には登りたくない人だということだ。他の本を読んでもわかるように、結局は彼女が登る人=他の人は登れない人・・・になりやすいからだ。(苦笑)

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コメント

MINMINさん
一度手にした自分の位置から離れる事の難しさを感じますね。
田部井さんの登山家としてのキャリアは認めるとして、同じ様にお金を払う公募隊では、皆さん同じはず。
電車の乗り遅れたら連れて行って貰えないのは下界も上も同じと言うのが分からないのは、自分は特別と言うのが頭の隅にでも有るのかしら。
登頂出来なかったのには、それだけ自分の側に何かが有ったはずと思わないと、山には登れないものね。

話はずれるけど、定年退職した男の人が、以前の地位の時のままに心持ちから抜けないで、顰蹙を買っているのが気が付かない、そんな事を連想してしまった。

投稿: 山百合子 | 2006/08/31 11:15

山百合子さん
お金を支払うということはみな同じなんですが、恐らく金額が違うことも問題なのですが。。。(苦笑)でも、田部井さんは恐らく自分は特別・・・みたいな感じだったようで。

全ては自分の思うままにはいかないという現実・・・それは公募隊という枠の中では、新たな経験になったのでは? 帰国して間もない講演会に参加したときは、本当にマナスルの話は僅かにしか触れなかったですものね。やっぱり、悔しかったでしょうね。。。

定年の男性の話、うーん、ちょっとニュアンス似ているかも。。。 

投稿: MINMIN | 2006/08/31 23:32

山に登れないとなんとなく買う気が失せちゃって
今月号買ってないんですよー。
でも今日、帰りに買ってみます。

女って本当に怖いですよねー。
高校受験で受けたすべり止めの学校は
女子高だったんですが本当に行く事にならなくてよかったって思いましたよー(笑)

私、学校も職場も圧倒的に男性が多いところだったんで
余計に女の集団が怖いですー(笑)

投稿: えび@おひす | 2006/09/01 12:41

ありゃ、女子高は怖くないっすよ。 えびさん。
うん十年前、体育の後、着替えに30分以上かけて男の先生を泣かせていた元「女子高」生です。
まあ、学生は余り利害関係は無いですしね。

MINMINさんのこの文章を読んでないと、何があったのか良く分からない記事ですね。 おっしゃる通り、4人目の存在は全く抹殺されてる。 4人目の人がいたらしい。 どこの国の人かも判らない。 その人はサーダーを個人シェルパ(登頂補助としての)として契約していた。 その為に自分達は登頂時の補助が無くて登れなかった。 色々書いてありますが、そういう事なのでしょうか。 いくら公募隊といっても隊長(隊の責任者)がいないってのは普通なんでしょうか?
それぞれの契約内容が違うってのも普通なんでしょうか?
支払った金額が違い、内容が違うなら、最初にその点の了解は無いのでしょうか?

公募隊に限らず、遠征隊でも登れた人・登れなかった人には当然わだかまりが残る様です。 団体行動は難しいけど、個人の集まりの公募隊独特の難しさもあるのですね。
田部井さんは人柄は知らないけど、「過去の人」なのではないでしょうか。

投稿: REI | 2006/09/01 17:28

★えびさん
私は今月号も雑誌は山渓も岳人も<立ち読み>です。
最近は山スキー関係と興味を持った記事が載った号しか買いません。
既に家は山の雑誌や本で充分一杯なので。(笑)
今回のプログを書くにあたって、さすがに2度は立ち読みに行きました。

実は自分は高校は女子高ですが、よく言われる良妻賢母などの一般的な女子教育は全く存在しない、自由で独立自尊の建学の精神で育ったので、高校は恐くなかったです。

会社は男女半々ぐらいなのかなあ?全て主要ポストは男性しかいない誠に封建的な会社ですけど、恐ろしいのは男女を問わずですね。自分的には、やっぱ女同士のどろどろは恐いですね。

投稿: MINMIN | 2006/09/02 12:37

★REIさん
冷静な目で「岳人」をごらんになってくださったようで、嬉しいです。そうか、4番目の人は女性とあるだけで、国もわからなく書いてましたか・・・。

平木さんの文章でクライミングシェルパがどの程度確保できているかによって、登頂確率が随分違う・・・とありました。
そこがポイントでして、ある程度値段の高い公募隊(たとえばケンケンさんことAGの近藤隊のエベレストなど)ではその比率が高いわけです。それに対して、現地のエージェントなどや外国隊では色んな契約が一つのパーティーの中で混在するわけです。

たとえば、究極は登山許可だけは一緒で、あとは全て別行動。それとかコックだけは共通に使わせてもらって、あとは別行動。それとか、今回のオーストラリア人がそうだったように、自分専用のクライミングシェルパを連れているようなケースとかさまざまなようです。よって、値段もさまざま、そのあたりの了解を他の参加者に事前に話しているかどうか?そのあたりは私にはわかりません。(文章を読む限りでは、田部井&平木パーティーは事前にあまり了解していなかったような)

今年もチョモランマでは死亡事故が多かったようですが、多くは手薄なサービスだけ受けて、あとは他のパーティーのトレースをあとから利用して安くあげようというサポートの薄いパーティーだったと聞いております。

金銭感覚の話は、田部井さんの講演会に参加したときにどこかの山に登るための一人あたりの遠征費用の金額を聞いたのですが、<すごく大金>だというのでドキドキして聞いたら、正直な話、結構安かった・・・・。やっぱり、昔田部井さんがスポンサー周りをして遠征していた時の感覚と、現在の公募隊の値段の感覚が大分ずれていて、彼女としては大金で<松定食>だとしても、公募隊の値段としては<梅定食>だった可能性があるのかな? やっぱり、時代とともに感覚が違ってきてしまっているのでしょうね。

投稿: MINMIN | 2006/09/02 12:56

MINMINさん、女子高ですか!
なんか一寸そんな匂いがしていないでも ・ ・ ・ ・。
もうちっと若い時は何となく女子高出身者が分かったものでしたが。 ズレズレレスで失礼しました。 無視して下さい。

投稿: REI | 2006/09/02 16:34

夕べひさしぶりに「にこ山」の「嗚呼 我が青春の山々」を
眺めていたら、MINMIINさんの投稿発見。確かに女子高
山岳部でしたね。
ちなみに私は元男子校の都立高で3;1の共学、高3の時は
50人の内女子は6人でしたよ。だからモテモテ(ウソです)。
「岳人」図書館にあるかな…行ってみよう。

投稿: にしはは | 2006/09/03 06:53

★REIさん
REIさんも女子高でしたか。女性だけの3年間はそれはそれでよかったかな?6年間だと長すぎて嫌ですが。
大学時代は、女子高出身ってなんとなくわかりましたね。
あんまり男性の目を意識しないで、のびのびしているって・・・。

★にしははさん
そうそう、そこに投稿いたしました。
私の貴重な高校時代の姿が写ってますね!
キスリング背負っている私の写真でしたね。
にしははさんは硬派な元男子校でしたか。女性の数が少ない方がなんとなくやっぱ、もてもて気分で良くないですか?
なんか、今の会社は全然そういう意味では失敗だったぁ~。

投稿: MINMIN | 2006/09/03 17:46

岳人読みましたー。
MINMINさんの記事がなければ
結構意味不明な記事です(笑)
でもなんだか文句ばっかの記事ですね。

REIさん、女子高は怖くないんですね(笑)
そりゃすいません(^^ゞ

投稿: えび | 2006/09/05 21:56

遅ればせながら、岳人の記事読みました。。というか、このブログを読む前に読んで、そこまで意味を解せず、読み飛ばしてました。
「空へ」や「K2非情の頂」などを読んで、公募隊の不思議なモラル感は何となく想像つきますが、日本人同士でのその争いは悲しい。(最初はXさんは日本人とは思わなかった。というより意識の外にあった。そんな風に書かれているので)

でもMINMINさんの「梅定食」と「松定食」の例え話には笑いました。皆が「梅定食」で、チャンスの差が唯天候の差のみ、なんて状況だったら、まだ互いの成功を称えられるのかもですね。

でもわが身を振り返ると、自分が雨天敗退した憧れのルートに、友達が行ってしまうと歯軋りするほど悔しかったなぁ~。男女を問わず(でも女性の方がより悔しいかも)。了見の狭いワタシ。。

こんな普通のクライマーでもこんなだから、超・有名人の田部井さんが怒り心頭になるのは分かるような、でもやっぱりXさんがかわいそうなような。

投稿: Hirarin | 2006/09/06 00:02

★えびさん
岳人を読んでくださってありがとうです。
やっぱ、文句多いって、そうですよね。
それよりも8000m登る前に、もう少し低い山に登ってからにしろよ・・って思うのもありました。


★Hirarinさん
「空へ」と「K2非情の頂」と2冊とも読まれているのですね。私は後者はいずれ読もうとおもいつつ、まだです。

そうか、みんな全員が梅定食だったらお互いの健闘をたたえあえる・・・というのはごもっとも。今度Xさんにお会いしたら、松と梅と私が勝手に推測している部分を確認してみたいと思ってます。

>雨天敗退した憧れのルートに、友達が行ってしまうと歯軋りするほど悔しかったなぁ~

うんうん、すっごくわかる。特に同性だと・・・というのもまたごもっとも。なんかわかるなあ~~。

投稿: MINMIN | 2006/09/06 23:00

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