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2006/11/01

白馬遭難とガイド山行

10月の連休は大変に気象が厳しくて、多くの遭難事故が特に北アルプスを中心にして発生した。中でも悲劇的だったのが祖母谷から清水岳経由の白馬を目指しての九州の7名のガイド登山だろう。大変不幸にして4名もの方が亡くなられた。

今回の遭難事故は、私が現在学んでいる登山学校でも話題になった。S先生を中心にして、自分を含めての何人かの山屋さんが集まっての机上講習会の後でのお酒の席の話。では、ガイド登山ではどうすべきだったのか?を皆で話し合った。

コースタイムで初日が10時間を越すぐらい(11時間ぐらい?)で白馬山荘泊の予定。2日目が朝日小屋、3日目が犬ヶ岳の栂海山荘、4日目が日本海へというコースだったようだ。それをもとにすると、初日が天気が予め悪いことはわかっており、さらに最初から小雨がふもとでは降っていたという条件だ。装備はTVで写っていたように普通の雨具(冬用ではない)で軽装だった。


このパーティーの田上ガイドは九州福岡のラリーグラスというショップをメインにそこでの顧客を中心的に集めていた方のようである。(田上ガイドのエピソードについては、少し前のこのプログでも取り上げ済み)九州在住ながら、しょっちゅう北アルプス界隈には出没していたという話ではある。また、去年ぐらい?に同じルートを歩いて成功していたという情報もどこかで読んだ記憶がある。ただし、どの程度北アルプスの厳しい悪化した条件化を体験していたかというと?である。さらに、彼らはとにかく九州から北アルプスに来ているわけなので、恐らく飛行機でアプローチとかで、関東あたりの私などが来る気合とは格段の違いが有ると思う。たぶん1日前に出発してきて、麓まで入るのに一日がかりだろう。このあたりも悲劇に繋がった要素が高いと思う。(臨機応変には計画変更をしにくい。)


さて、そのような状況下において、一番S先生が問題にしていたのは、「何故一番近くの村営宿舎に救助にかけこまなかったのだろうか?」という疑問である。山では下る方が簡単なので、清水岳方面から登ってくれば、とにかく稜線にたどりつけば、村営宿舎ならば地形の関係で風がさえぎられる形になるはずだし、とにかく下れるので登らなければならない白馬山荘に比べると格段に楽である。それを、ガイドは地形はわかっているだろうに、何故村営宿舎に助けを呼びに行かなかったのだろうかという疑問である。S先生曰く、「ツエルトを飛ばされたというが、もともと避難小屋のような寝袋持参の栂海山荘に泊まる予定ならばシュラフカバー(ないしはシュラフ)は持っている可能性が高いから、それに動けなくなった人を突っ込んで、ガイドは全ての装備をそこに捨てて空身になって一番近くの村営宿舎に助けを求めに行き、そこで小屋の若い衆を何人か来てもらって救助に行けばよかったのに!」という説であった。さらに、この時期の北アルプスはどんなに荒れたとしても、シュラフカバーに突っ込んで、フリースを中に着込ませて雨具を着れば、助けが到着するまでの1,2時間ぐらいならば死ぬほどには至らなかったのではないだろうか。


冬山をやっている者ならば実感できると思うけど、標高差で2000m位を登るというのであれば、真冬でさえもなかなか分厚いフリースを着て登ることは少ないと思う。登っていると暑いのである。冬山用の分厚いジャケットを着て、あとは中は比較的薄着なんていう場合も多いと思う。最初から雨具を着ていたとして、まだ防寒具を1枚か2枚を足して着て、さらにツエルトなり、シュラフカバーなりをつければ死には至らなかったのではないだろうか?


さらに気になるのが、わざわざ遠い方の上にある小屋まで登って、どうやらガイドはそこで力尽きたのか?救助隊の方には加われなかったという情報がある。歩けなくなった姉妹と途中で倒れた女性と、村営宿舎に運ばれたもののその後亡くなった女性。助けに行けないガイドというのは、かなり情けないガイドである。(また、もし村営宿舎が冬季休業でやっていないと勘違いしていたならば、完全な事前情報収集不足である。)村営宿舎の場所と白馬山荘の位置関係さえも、パニック状態になってしまってわからなくなってしまったというのならば、完全なガイド失格であろう。


では、今回のような条件の場合、登山ガイドはどうすべきだったのだろうか?という話題になった。S先生は基本は登攀系のガイドなので、今回のような無雪の縦走はあまり行わない。それでも顧客の気持ちやガイドとしてのあり方では色々と思うところがあったようだ。S先生曰く、「九州から4日間ぐらいの山の予定で来ているのならば、天気が4日間良いことも少ないので、この時期の2500m以上の北アルプスは荒れたら雪は常識なので、事前に色んな天気パターンの場合は想定して10個ぐらいのプランを作っておくべきだ」という。それをいきなり現地に行ってから顧客に言うのでなく、<飛行機に乗る前に同意を得ておくこと>がポイントだという。


参加者は、海外の山々にも登られている相当な健脚でベテランの方々。コース選択もわざわざ通向けの清水岳経由であるからして、かなりのこだわりがあるだろう。白馬岳から日本海に抜けるのは大変長いコースなので、このうちの白馬岳にこだわりのコースで登る前半をメインにすえるのか、それとも日本海に抜ける栂海新道をメインにするのかで、大きな二つの選択ができただろうという。前半メインならば、途中の避難小屋で天候を見るべきだったろう。あるいは入山を1日遅らせるということもあっただろう。後半メインならば、朝日岳に直接登る小川温泉の道ならば比較的標高も低くて多少の天候の悪い状態でも登れて、そこで天候を見極める等・・・・・。余った日程で、どこか近くの手軽な山で紅葉を楽しむとか、(そんな軟弱なコースではツワモノぞろいのこのパーティーは納得しないかもしれないけど、事前に根回しをすればよかったのでは) 


とにかく、ガイドというのは何よりもお客さんに安全に楽しんでもらうということが第一なので、プランはよりべりエーション広く、色々とアレンジできる引き出しの広さを持っておくべきだ・・・・という話だった。


※なお、今回お客さんの中で唯一助かった67歳の女性は、私のたまに拝見している北アルプスの船窪小屋の常連さんだったようです。船窪小屋と言えば、やっぱり一般的というよりも、ちょっと通っぽい所の印象ですね。(HPの日記に記載がありました。女主人が常連さんが無事に助かってよかった・・・と書いてありました)

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登山」カテゴリの記事

コメント

あの立山の遭難を知っているので、MINMINさんの記事は気になっていました。
立山で遭難があった時、私も友人と苗場山に行く予定で、熊谷までは行ったのですが中止しました。
記憶では谷川でも観光登山の男女が亡くなったと思います。
僅か20年経たずに同じような気象で、大きな遭難が起きた事が残念でなりません。
私には時期的にまた失礼ながら参加者の年齢を加味して、計画その物が無理に思えます。
その他は詳細が判らないので、何とも言えません。
知り合いのガイドも同じ協会ですが、話す機会も無く、あってもどこまで説明してくれるか判りません。
プロガイドの組織として、きちんと総括してくれる事を希望しています。

投稿: REI | 2006/11/04 17:44

REIさん
有名な確か1989年の立山大量遭難のことですよね。
私もあまりにもインパクトが強くて覚えてます。
あの時もいかにも天気が悪くなりそうなのに、無理して夏山装備で突っ込んだって感じの話しでしたね。
遭難去れた方々は今回と違ってガイドさんはいなくて、夏山感覚の人しかいなかったと記憶してました。(ベテランさんはいなかった)

今回の遭難はあの時のことを覚えている人かどうか知りませんが。やっぱり幾らベテランでも、それなりの年齢なので無理はききませんよね。(残念ながら、天気が悪くなったような場合は若者の方の生存能力の方が良いようです)

私の習っているガイドは別の組織なのでこちらの協会の情報は入らないと思います。
ただ、メインとなったお店のホームページなどを見ても、全く今回の事故の件は触れておらず、誠意は感じられません。
さらに、そのお店の経営者はどうやら九州の山岳界の重鎮らしく、さらに全国的にみても組織の相当上の幹部らしくて、対応が苦慮されているようです。(どっかのネットで書いてましたので、裏付けまでの確認はしてませんのであしからず)

なかなか、このような話題はレスが書きにくいですが、山を歩くものとしては他山の石として、慎重に学びたいものです。

投稿: MINMIN | 2006/11/05 21:12

続報ありがとうございます。
今回の場合、ガイドが付いての遭難でしたので今後のガイド登山のあり方や高齢者の登山に関する何か、指標や教訓のようなものが出てくるかと思っていましたが、残念ながら関係組織からはそういったものは一切出てこないようです。

村営宿舎に行かなかった件については私も当初から不思議に思っておりました。もし、パーティ全員が登ろうとせず、最初から村営宿舎を目指していたのなら、もしかするとあと何人か助かったのではないか、と思うと残念でなりません。

その後、ネットのニュースが落ち着いたので、いろいろと調べてみると、ガイド、サブガイドともに、本年の春に個人としてヒマラヤ遠征し、ルート工作なども手がけている登攀技術を持った方たちだったようです。ただ、体力があり、登攀技術があったとしても、相手の体力や技術を担保できないのであれば、単なる個人パーティのリーダでしかないように思えました。
サブガイドをされていた方は福岡の社会人山岳会に所属されており、どうやらその会では「報告とお礼」をされたようなので、その会にその報告の公開をお願いしようかとも思いましたが、まだ、踏み切っておりません。
ただ、地域としてあまり中部山岳に対して多くの経験が蓄積できるとも思えません(関東の登山者なら九州の山塊に詳しくないのと一緒です)ので、そういった遭難情報の共有は九州の登山界にとっても必要なように思いますが、現実は忘れたい過去なんでしょうね。
別の掲示板で、更新のお知らせなどありましたので、遠征してしまいました。ではでは。

投稿: おーの | 2006/11/08 10:06

前言撤回します。

あれから、サブガイドの方のヒマラヤ遠征の報告書を読みました。
で、びっくり。
ヒマラヤに登頂するまで海外はおろか、日本の3000m級の登頂経験もなかったようです。しかも、ヒマラヤへ行った4月で山岳会に入会して半年。ということは、山岳会入会1年弱の日本アルプス初心者がガイドの補助として、5人もの60歳以上の団体を引っ張っていったらしい。

ならば、先行させて山小屋に連絡させることも、その場に残って疲労した人間の対応をすることもできないわけです。

さてさて、困ったぞ。

投稿: おーの | 2006/11/08 17:31

おーのさん
はじめまして。貴重な情報ありがとうございます。
ヒマラヤ遠征の記録、今日はちょっと遅い時間のでチラとしか拝見できておりませんが、週末にでも楽しみにして読もうと思います。

ほとんど実質素人レベルの女性でもいまやヒマラヤに登れる時代なのですね。うーん、なんとも言えないものですね。少なくともガイド補助としてはレベルに達していないのは間違いないですね。おそろしや、おそろしや~~~。

投稿: MINMIN | 2006/11/09 00:16

はじめまして。
福岡に住んでいるものです。
この、ラリーグラスさんの遭難事故について知りたくて、こちらのHPにたどり着きました。
ラリーグラスさんが4月1日付の福岡市の市政だよりに初心者登山教室の募集を告知していました。
 講義:3日間(1回2時間)
 実技:3日間(午前9時から午後4時)、鬼ヶ鼻岩、雷山、宝満山にて実施
 対象者:18歳以上で最低40分以上続けて歩ける人
 料金:5000円
 定員:30名
私は、この春から登山を始めようと思っています。
(小学生の頃黒部ダムに行って以来、山は大好きです。)
さまざまな知識を得たいと思い、色々ネットで検索して、この事件の事を知りました。
最低40分以上歩ける人で、9時から4時までの登山はできるのでしょうか?っと・・・。ふと。
一応、私は縦走もしたいので、1日3時間~7時間平地を歩いたり、ボルダリングしたりしてますが・・。
このお店の北アルプスのブログを見て、色々考えました。
情報ありがとうございます。

投稿: なな | 2012/04/02 16:31

★ななさん
どうも、だいぶ前の記事を読んでいただきありがとうございました。
当時、山に興味を持っていなかったら忘れている方もいるかもしれませんが、相当に問題の大きな事故だったです。

九州ではかなり大きな登山用品店ということや、後日談などもその後いろいろと聞き及んでおります。最初のうちは何らかの形で誰かにサポートしてもらわないと、なかなか山登りはできにくいので、そういう意味ではハイキングレベルならばこのお店も、そんなにおかしいことはないと思います。

ただ、本格的な登山となった場合、疑問点が残るのは事実です。
慎重にいろいろと考えてから行動すること、それと少しずつステップアップしながら実力つけてから大きい山を登ることが大切かと思います。

何かお困りのことか、不明な点がありましたらお気軽にお尋ねくださいませ。

投稿: MINMIN | 2012/04/05 22:37

MINMINさん、ありがとうございます!
(とーーーーっても、返信遅くなりましたm(__)m)
とりあえず、登った事ないので、云々言えないので、4月上旬に別のショップのイベントに参加し(ガイド付き)、近場で、初登山してきました。

九州大分の1789m(久住山)の山に登りました。(往復6時間ぐらいの日帰り。)
感想としては、石の階段が多く、カルスト台地なので、低木が多く、結構しんどかったです・・・
一応、雑誌やアドバイスで装備は見よう見まねで揃えましたが・・(雪山道具が少し使えました♪)。
スノーボードと登山使う筋肉が違いますね・・(当たり前か・・・)

本当に、上記の某R社の体力で大丈夫かな?と・・思いました。
どれぐらいみなさんトレーニングされていますか?

あと・・今、福岡のアウトドアショップは、山ガールブーム(ブームに当たってしまった・・・)でイベントが多いです。
アウトドアショップの引率メンバーは、20代前半で・・・。すごく不安です・・・。
うーん。九州だからOKなんですかね・・・・・。

投稿: なな | 2012/05/25 06:37

★ななさん
初登山、おめでとうございます。
いろんな感想があると思いますが、何回か簡単な所を言ってから、次を考えてはと思います。私も出張の合間に久住山には登ったことあります。本州とは違う景色で、とても新鮮に思いました。

6時間は最初の方にとってはシンドイと思います。
ショップの引率って、20代前半では、全然まだ経験豊富というレベルとはおそらく違うと思います。若い人の引率の場合はどうしても自分の体力をベースに考えてしまうので、私も正直心配です。

山は速く歩くのが偉いとか、高い山に登ったことが偉いとかでなく、ガイドとしてならば、いかにお客様のことを考えて歩けるかというのがポイント。若いとついつい突っ込んでしまいがち。(皆がそうとも限られませんが)本当はショップとかでなく、山に行っているお友達や職場の関係者とか、もっと親しい人と登れる方がいいとは思いますが。ショップのツアーに行って、そこで意気投合して仲良くなった人同士と登る方が安全かもしれませんね。少しずつでもじっくり考えながら登ると、きっとできることが見えてくると思います。頑張ってね

投稿: MINMIN | 2012/05/27 22:53

古い記事への突然の投稿、失礼いたします。
先般、このコースに行ってまいりまして、この遭難のことを思い出しネットを見ていたところMINMINさんのページに辿り着きました。
ガイドが村営宿舎でなく白馬山荘に駆け込んだ理由について、私も疑問に思っていたのですが、次のようなことも考えられるかと思いコメントさせていただいた次第です。
当時と今とでは登山道の状況が変わっているとは思いますが、今は、村営宿舎へ行く道と白馬山荘へ行く道の分岐から、それぞれに行くのに所要時間は殆ど変わりません。もっとも天候を考慮しない場合の話ではありますが。
また、村営宿舎へ行く道は、分岐直後に雪田を通らねばならず、初夏は紅ガラ、この時期は露出した石に印されたペンキに頼る訳ですが、その上に雪が被さり視界も悪いとなれば結構迷いやすい所です。
一方、白馬山荘へ行く道は、分岐から植物保護のために登山道の両脇にコースロープが張られ、これに自然に誘導されます。もし当時も同じ状況であれば、意図したのかどうかは分かりませんが、白馬山荘に行くのもおかしくはないと感じました。

投稿: 鬼瓦三十郎 | 2012/09/16 14:44

★鬼瓦三十郎様
ご返事遅くなって失礼いたします。ここのところ、すごく忙しくて・・・・

清水岳コースを歩かれたのですね!
何度も白馬界隈にしょっちゅう行っている人ならば、あまり迷わない場所でしょうけど、確かに数回ぐらいしかガイド自身が白馬稜線に行っていないとなると・・・

遭難は秋の時期なので、雪渓は残っていないと思いますが。
確かに白馬山荘のロープはわかりやすいですね。
何度も来たことないならば、そのロープにすがりつく想いで登っていったのかもしれません。ガイドを使うならば、信頼できるガイドと山に行くべきと思う次第です。

投稿: MINMIN | 2012/09/23 17:01

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