クローズアップ現代「自分の足で歩きたい~ヒマラヤに倒れた女性登山家~
先日、「NHKクローズアップ現代」で女性登山家の河野千鶴子さんの生き方が取り上げられていた。2年位前に日本登山医学会の講演会で河野さんの講演を直接お聞きした者としては、その死は大変ショックが大きく、またいろいろと考えさせられるものだった。
今年5月23日に三浦雄一郎氏が世界最高齢の80歳でエベレストに登頂した。同じ日に8000峰のダウラギリⅠ峰で河野さんは遭難死された。三浦氏が1億5000万円かけた大名登山だったのに対し、河野さんは200万円位の質素な登山予算。三浦氏が通常は設置しない8500mにもC5を作った上に、さらにC2からヘリコプターでベース、さらにカトマンズに一気に下山して危機を脱出したのと全く正反対な登山だった。それも、頂上直下あと100mで先行するアメリカ人が登頂諦めて下山するのを助けようとして一緒に同行して降りていて、天候悪化に巻き込まれて力尽きて遭難死だった。
今回のテレビではその生き方がメインとなり、登山の部分はやや簡略化してあったが、とても興味深いものだった。
どういう人生だったかというと
昭和21年生まれ。享年66歳。男尊女卑が大変強い鹿児島県の生まれ。「女には学問がいらない」と親から言われて、高校卒業後に助産婦になる(看護婦資格は当然取得後と思われる)。26歳で結婚、2男1女に恵まれる。ご主人は自営業で町工場?を経営する方。大きな病院(日大板橋病院等)で部下40人を束ねる管理職に44歳でなる。なかなかのワーキングウーマンだ。
でも、子育てを一手に引き受けて、職場でも管理職で疲れ、自分ってなんだろうと思って行き詰って悩んでいた時に、50歳にして登山に目覚める。男女の別なく自分の可能性を発揮できる山に急激にのめり込んで行った。「練馬山の会」にほどなく所属するようになり、52才の時には早くも海外登山に行く。練馬山の会はオールラウンドの山岳会なので、クライミングや雪山トレーニングも行っている。海外に皆で行く機会があって、そこで感じた女性の限界。「女性の体力を不安視する中で、登頂アタックを遠慮するように言われた」ことから、河野さん流の一人の登山が始まった。シェルパを直接雇って、自分のパーティーをコンパクトに作って登るやり方だ。
このあたりのくだりになると、本当に、「そうそう、私もそう思う!」って感じる女性ならではの窮屈さ、限界さなどを感じ、とっても共感する。自分の場合は若い頃から男女混成パーティーでやってきたので、やっぱり体力の限界って男女差があって、いろいろと思うことがある。特に海外登山で遠征隊で大きな山に登るときには、アタック隊のメンバーが決まっていて、どうしても優先順位がついてしまい、力のある人しか登らせてもらえない、後順位の者はアタック機会が失われる・・・・ということになってしまうんだろうなと常々思っている。遠征に行くだけでもお金がかかるのに、肝心のアタックする前に足切りをされてしまうのではとっても納得できないだろうと思う。
そんなわけで、河野さん流の遠征の仕方を以前の講演会でお聞きした時には、自分にとってはかなり新鮮な驚きであり、感動したものだった。やればできるんだなって。実際、私の知人で女性で世界で大きな山を登っている人は、同じようなシェルパ直雇形式というのだろうか、そんな形でやっている。「登る計画を立てるのも自分、責任を負うのも自分」・・・・なんと潔いものだろうか。今回の残念な結果は自然の前に敗れてしまったけど、責任を負うのも自分ということで、ある意味覚悟の上の結果だったのかもしれない。
既にセブンサミットを達成しており、個人の力で登るには南極だけでも最低でも500万円位?はかかる。これもまた「働く女性の経済力あってのこと」と尊敬するものだろう。他の山は工夫すればかなり安くすることはできけど、南極とエベレストだけは大金がないと登れない山なのだ。南極はアプローチの飛行機代などの仕組みが高く、エベレストは入山許可料がほかの山よりも遥かに高いからだ。今回の山は5個目の8000m峰で、今回で最後の高所登山にするつもりだったというから、7700mで力尽きてしまったのは誠に残念な限りだ。
ただ、番組を見た個人的な感想としては、シングルの私が言うので少し的外れかもしれないけど、ご主人やお子さんとは山については全くコミュニケーションをとっていなかったというのが残念だ。ご主人もあまり家事手伝いをしないタイプのようだ?家族が興味を持っていなかった・・・・ということなんだろうけど、少しは理解してあげるとか(何も言わずに家を出してもらえるだけ幸せなのかもしれないけど)、山のことや体験や感動を伝えられていなかったのは残念だ。お亡くなりになったあとで、たくさんの手記が出てきて、「こんなにたくさん書いていたんだ・・・・」とご家族が驚かれているのが印象的だった。
また、「計画を自分で作るのが楽しい」というのも実感のところ。自分の海外登山はいずれもツアー会社依存型がほとんどなので、ちょっとその点は残念なところだ。でも、ホントに自分で自分をコントロールできる、計画できるって楽しいことなのですよね。
自由に世界に羽ばたいていた河野さんが眩しく、かっこいいと本当に思う。最後に心からのご冥福をお祈りしております。
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